次期太陽系始原天体探査ミッション検討例

  • Jan. 20 2016

Dec. 2002 第2回宇宙科学シンポジウム発表論文
矢野創、川口淳一郎(文部科学省宇宙科学研究所)、秋山演亮(西松建設)(所属は当時)、小天体探査フォーラム

1. 前回シンポジウムの概要と今回の目的

2001年に宇宙科学研究所が掲げた「日本の宇宙科学の将来構想」における「宇宙科学の現在の目標」として、天文観測については「宇宙の進化」「極限状態の物理」「星と惑星の形成」があり、太陽系探査については「太陽系の起源」、「惑星の進化と多様性」、「生命の発生・進化の環境」、「太陽系プラズマ現象の解明」が掲げられた[1]。 前回のシンポジウムでも指摘したように[2]、小天体探査において、「始原天体(小惑星、彗星、EKBO(エッジワース・カイパーベルト天体)など)」における分化・未分化状態の理解、隕石・宇宙塵試料との相関、生命前駆物質の生成・進化を探ることは、後者の目標のうちの最初の三つと直接関わる。

小天体探査は月や火星などの探査と違い、太陽系の創世から地球型惑星や木星型惑星ができるまでの様々なエポックメイキングな出来事のどの時代を調べるかによって、探査すべき小天体が異なる[2]。そこでインターネット上の会員制グループ、小天体探査フォーラム(MEF:Minorbody Exploration Forum - ”会員ページ”、”一般公開ページ”)では、2000年5月末より、MUSES-C に続く、今から 10 年後に日本が行うべき小天体探査について、(1)アイディアを全国からボトムアップ式に募り、(2)各案の科学的意義や工学的な実現可能性を検討し、(3)宇宙研が実施できる規模の有力なミッション候補を複数作り出した。それらを相互評価して順位を決めて絞った上位二案に、他案の科学目的(上記の三つの目標を含む)の多くを合併した「統合二案」の骨子を、前回のシンポジウムで発表した。

そこで掲げられた2010年近辺での「ポスト MUSES-C 時代の小天体探査」の具体的なミッション目標は、(1)小惑星博物学の早期決着と、(2)分化・未分化小惑星の表面・内部構造探査であった。そこで(1)には「スペクトル既知 NEO マルチランデブー&サンプルリターン(できれば M 型と CAT 天体候補含む)+着陸機(又はローバー)+ HERA ミッションとの国際連携」を、(2)には「複数スペクトル型小惑星族マルチフライバイ&サンプルリターン+編隊飛行技術」をミッション例として掲げ、今回は特に工学的検討についての議論を深めた。さらに今回は、相互評価の順位こそ中位であったが、軌道工学的に十分実現可能性が高い、「枯渇した彗星核」と思われている CAT 天体(彗星・小惑星遷移天体)のサンプルリターンについても三番目のミッション例として検討した。

 

2. 小天体サンプルリターン戦略の意義

上記3ついずれのミッション案も「小天体サンプルリターン」という戦略が一致していることに注目されたい。人類は、すでに数万個の隕石・宇宙塵試料を実験室に収集、記載している。また地上観測でカタログ化された小天体のデータは 10 万個以上存在する。これら全てに探査機を飛ばすことは非現実的かつ不必要であるから、小天体の分類・統計学的理解は基本的に、豊富なデータベースを持つ「物質分析」と「地上観測」で達成される。

しかしながら、地球環境内で採取される隕石や宇宙塵から太陽系の物質進化を議論する場合、それぞれ採集場所によって、サイズ、形、磁性、地球への突入速度などの様々なバイアスが生じる。また、地球突入時の熱変成や隕石内部の水溶性物質と例えば南極氷床の水との化学反応や地表での風化など、多くの変成も受けている。さらに母天体が明らかな隕石・宇宙塵試料は、月、火星、ベスタを除けば、ほぼ皆無である。また、観測による小惑星の分光パターンも、天体表面の組成、地形、サイズ分布、粒形、宇宙風化などに依存している。

これらのバイアスや地球環境との反応による変成を受けずに、起源の明らかな宇宙物質を実験室にもたらすのが「サンプルリターン」の利点であり、分析と観測の両データの「橋渡し」こそが、小天体研究における惑星探査の役割だと言える。以下では、先述の三つのミッション案の、現時点での検討結果を概説する。

3. スペクトル既知 NEO マルチランデブー&サンプルリターン

画像:左から図 1. 小惑星地上観測、宇宙物質分析、NEO サンプルリターン探査の相互依存性[3]. 図 2. (左)本ミッション案の探査機想像図. 図 3. (右)マルチ NEO 探査の打ち上げオプション例.

ミッション概要
2000年代後半あるいは2010年初頭に、1~2 機の探査機を近地球型小惑星でスペクトル型既知の天体複数個にランデブーさせ、軌道上グローバルマッピングマッピング、および着陸機または微小重力ローバによる表層・内部構造のその場計測をした後、表面物質を地球に持ち帰る(図 2, 3)。探査対象は、MUSES-C や米国の NEO マルチランデブー&サンプルリターン計画「HERA」ミッションなどと調整して、それぞれ異なるスペクトル型を選び、全体として多種のスペクトル型小惑星のサンプルリターンを短期間で可能にする。また MUSES-C で開発した技術の継承、発展による開発期間の短縮、低価格化も目指す。(詳細な技術開発項目は[2]を参照のこと。)

ミッションの目的
(1)地上観測による小惑星スペクトル型と、物質分析による宇宙塵・隕石種のデータベースの対応関係の早期決着
(2)地上観測による小惑星スペクトル型と実際の表面物質および表面状態との対応関係の解明
(3)小惑星帯全体における物質分布の解明

科学的意義
太陽系に広く分布する小惑星は、地上分光観測から、最低三つのスーパークラス(Primitive, Metamorphic, Igneous)、あるいは 1 ダース程の主要なスペクトル型(D,P,C/K,T,B+G+F, Q, V,R,S,A,M,Eなど)に分けられ、各存在頻度は太陽からの距離によって異なる。小惑星帯の一番内側には S 型や E 型、その外側には M 型、次に C 型、さらに外側には P,D 型がそれぞれ多い割合で分布しており、小惑星帯内では原始太陽系の形成後も、日心距離方向には構成物質があまり混ぜられなかったことが予想される。現在何らかのスペクトル型が判明している小惑星は、軌道が確定しているものの約一割に当たる 1200 個程度であり、その絶対数は S 型と C 型が多く、M型がそれらに続く。またその中には、CAT 天体も含まれている。そこでポスト MUSES-C の時代には、異なるスペクトル型それぞれの代表例を訪れてサンプルを持ち帰り、隕石・宇宙塵試料や地上観測との対応をつけ、「小惑星の博物学」を早期に決着させることが最重要課題の一つである(図 4)。

画像:図 4. 現在想定されている小天体の観測データと宇宙塵・隕石試料の相関

探査天体候補・軌道設計
軌道設計については前回[4]、スペクトル型が既知の NEO で輸送系の能力的にも行きやすい候補を選んで、以下のシークエンスについて数例を検討した(図 4)。ロケットには H-IIA、M-V、J-II(現 GX)を考慮したが、科学ミッションを成立する解を最優先した結果、多くが H-IIA の打ち上げとなった。つまり、2010-12年には,探査機を MUSES-C 級だと仮定すると、小惑星二個までのサンプルリターンは確実に可能な例が複数あることが分かる。
(1)1基打ち上げ、探査機1機、多天体訪問:地球出発→小惑星 A → 小惑星 B → 地球帰還(試料回収)
(2)1基打ち上げ、探査機1機、多天体訪問:地球出発→小惑星 A → 地球スイングバイ (試料回収)→小惑星 B → 地球スイングバイ(試料回収)→小惑星C→…→地球帰還
(3)1基打ち上げ、探査機2機、各機が多天体訪問:地球出発→地球スイングバイ →小惑星 A、B → 地球帰還(地球回収)

表 1 では各々のシークエンスの代表例を一つずつ記した。ただし、(1)科学機器の搭載重量を減らす、(2)長期の運用期間を許容する、(3)スペクトル型が未知で最近発見されたNEOも候補天体に含める、などの条件を広げれば、Nereus-1993 BX3 の例のように、大型電気推進(例:28.5 mN の単体推力)と EDVEGA 航法を用いて、M-V でも複数の解があり得ることが分かった。いずれにしても、探査機自体の動作保証、回収試料分析の成果や研究者間の分析技術の継承のためには、ミッション期間は短いほうが良い。つまり本ミッションの実現可能性を上げるには、ミッション期間の短縮化が鍵である。そのためには、地球に近づく毎に一つずつカプセルを落とす軌道計画(例:1989 ML-Nereus-Orpheus)や、地球スイングバイなしで複数の小惑星へ連続ランデブーさせる軌道計画(例:Nereus-1993 BX3)の確立(図 5-7[5])、新発見された NEO(ただしfast rotator でない、22-23 等級よりは明るいもの)の分光観測によるミッション立案の自由度と重量マージンを増やす、などの具体策が重要である。

探査機・
天体数
探査天体 ロケット 推進機 科学機器質量
衛星Wet質量
打ち上げ時期 小天体滞在 地球帰還 運用
期間
一機2個 1989 ML(E)
Ivar(S)
H-IIA
(地球SBなし)
電気
587kg/2148kg
2012.07.13
2013.03.30-
2014.01.28/
2015.12.15-
2017.05.04
2018.08.07
6年
一機3個 1989 ML (E)
Nereus(C)
Orpheus(V)
H-IIA
(地球SB x 4)
電気
100kg/2243kg
2012.07.09
2013.03.06-
2014.04.10/
2018.01.04-
2018.07.18/
2023.07.02-
2023.09.20
2026.01.27
14年
二機1個 1982 XB(S)

Nereus(C)
H-IIA
(地球SB x 各1)
化学
25kg/633kg

54kg/643kg
2011.11.16

2011.11.16
2015.09.02-
2017.07.08
2014.06.19-
2014.12.01
2019.12.15

2018.02.13
8年

7年
一機2個 Nereus(C)
1993 BX3
(型未知)
M-V
(EDVEGA使用)
電気
TBDkg/588kg
(MUSES-C並を想定)
2010.01.01
2012.09.13-
2012.11.11/
2014.04.28-
2014.06.25
2016.05.25
5年


表 1:2010年代初頭でのスペクトル型既知 NEO マルチランデブー&サンプルリターン案の軌道解析例

画像:左から図 5. 地球から Nereus へ, 図 6. Nereus から 1993 BX3 へ, 図 7. 1993 BX3 から地球へ.

4. ファミリーミッション:メインベルト小惑星族マルチフライバイ&サンプルリターン

ミッション概要
原始惑星の破壊から生れた小惑星族を訪ね、母天体の内部構造、衝突破壊の復元、隕石の相関を解明する。MUSES-C 技術を継承した探査機は、3-6 年間に S 型サブクラスの異なるコロニス族 3-5 個、あるいは 2-3 年間に同一族でもスペクトル型の異なるナイサ・ポラーナ族 2 個へ接近する軌道から、撮像、分光、重力測定、ダスト帯の組成分析を行う。フライバイする各天体表面には、自律航行機能を持って親機と編隊飛行を行う「弾丸」用子機を放出し、近接撮像を行いながら超高速衝突させる(図 8)。それにより、地下数 m オーダーの深さから放出する試料をエアロジェルのような非破壊捕集物質で採集して、MUSES-C と同様の方法で地球に回収する。(詳細な技術開発項目は、後述サンプリング方法の検討以外にも[2]を参照のこと。)

画像:図 8. 本ミッション案の探査機想像図. 弾丸子機が標的の小惑星に向かって放出されたところ.

ミッションの目的
(1)メインベルト小惑星族の起源と進化過程の解明
(2)惑星系の進化過程における普遍的な現象である衝突破壊の物理的素過程の実証
(3)原始太陽系での衝突破壊の時期、エネルギーの推定、再凝集などの履歴の復元
(4)すでに失われた原始惑星の内部構造(分化レベル)の直接探査
(5)地上観測による小惑星のスペクトル型と実際の表面物質や隕石・宇宙塵試料との相関

科学的意義
似た軌道要素を持つメインベルト小惑星の一群(「族(ファミリー)」)は、原始太陽系の初期にできた原始惑星の衝突破壊によってできたと考えられている。コロニス族は小惑星帯における三大ファミリーの一つで、軌道計画的にも最も行きやすいファミリーである。過去に探査機が唯一フライバイしたファミリー小惑星である、Ida とその衛星 Dactyl も有する。さらに黄道光への寄与が大きい独自のダストバンドも既に観測で発見されており、宇宙塵研究の観点からも興味深い天体である。一方のナイサ・ポラーナ族は同一族の中で E,M,S,F 型と多様なスペクトル型を持ち、二つのサブグループ(ナイサ群、ポラーナ群)にも分類されており、比較的最近に二つの異なる小惑星が衝突破壊した現場であるかも知れないと注目を集めている。

そこで同一族の中で異なるサイズ、軌道要素、分光特性を持つものを複数探査することで、以下のような謎を解くことが期待される。小惑星族の起源は、本当に単一の原始惑星なのか?100 km 程度の原始惑星の内部構造はどのようなものか?また、それが各族小惑星の組成や物性に、どれほど影響を残しているか?太陽系初期には普遍的な現象であった衝突破壊・再凝集の物理・化学的素過程の様子とはどんなものであったか?宇宙塵の起源に対する小惑星の貢献度はどの程度か?また、新「小惑星衛星」の発見や、族起源ダストバンドのフラックスと主要成分の解明、などである。

探査天体候補・軌道設計
前回の検討から、コロニス族については 3 年間で 3 個、あるいは一度地球に戻り採集試料を入れたカプセルだけを回収し、さらにもう一周させて 6 年間で 5 個の同属小惑星をフライバイさせる軌道計画が可能である[2]。一方、今回検討したナイサ・ポラーナ族では、スペクトル型が異なるナイサ群内の二個の小惑星(Nysa-Russellmark)、あるいはナイサ群とポラーナ群一個ずつ(Hertha-Hillary)を探査する解が得られた[6]。いずれの検討も、ミッション期間の短縮と科学機器の搭載重量を重視した結果、H-IIA 打ち上げと化学推進を利用している。もし H-IIA を M-V に代えた場合は、メインベルトまでの推力を稼ぐために、スペクトル既知 NEO ミッションの時のように、「小惑星でのサンプル採取」=>「地球へのカプセル投下&フライバイによる推力増強」=>「小惑星でのサンプル採取」を繰り返す必要があり、ミッション期間が長期化する。また搭載機器重量も厳しくなり、複数フライバイは可能でも、複数サンプルリターンは難しくなる。

探査機・
天体数
探査天体 ロケット 推進機 科学機器質量
衛星Wet質量
打ち上げ時期 小天体フラ
イバイ時期
地球帰還 運用
期間
一機3個
コロニス族
Bohlinia
1985 RA3
Aristides
H-IIA
(地球SBなし)
化学
180kg/1088kg
2009.06.11
2010.06.10/
2011.04.23/
2011.6.29
2012.06.02
3年
一機5個
コロニス族
Ida & Dactyl
Baikonur
Mimosa
Moultona
H-IIA
(地球SB x 1)
化学
250kg/1080kg
2013.02.01
2014.02.28/
2015.01.06/
2017.02.14/
2018.02.12
2016.01.28
(試料回収)
2019.01.29
(最終帰還)
6年
一機2個
ナイサ・ポラ
ーナ族
Hertha
(ナイサ群M型?)
Hillary
(ポラーナ群F型)
H-IIA
(地球Sなし)
化学
260kg/1213kg
2011.02.01
2011.09.27/

2011.11.13
2013.01.31
2年
一機2個
ナイサ・ポラ
ーナ族
Nysa
(ナイサ群E型?)
Russellmark
(ナイサ群S型)
H-IIA
(地球SBなし)
化学
150kg/946kg
2010.11.20
2011.06.16/

2013.01.08
2013.11.29
3年


表 2:2010年代初頭でのファミリーミッション案の軌道解析例

画像:左から図 9. ナイサ・ポラーナ族 Hertha-Hillary 探査軌道. 図 10. ナイサ・ポラーナ族 Nysa-Russellmark 探査軌道.

5. CAT 天体シングルランデブー&サンプルリターン

ミッション概要
NEO の一種であり、枯渇した彗星核と思われる CAT 天体の中でも、最も軌道計画的に行きやすい P/Wilson-Harrington 彗星(または小惑星 4015 Wilson-Harrington)に、アップグレードした MUSES-C 型探査機を大型電気推進と EDVEGA 航法を駆使して、2010年に送る。ランデブーした後に活動していない表面に接触して試料採集を行い、2018年に地球に持ち帰る。ただし揮発性成分の保管方法、地球帰還後の「宇宙検疫」、分析手法などには、新規技術の導入が不可欠である。またミッション立案の初期段階から国際協力も視野に入れる。

ミッションの目的
(1)太陽系外縁で形成された彗星核で進化した有機物や揮発成分の残滓の直接採集
(2)彗星の熱史の解明
(3)彗星から CAT 天体、「小惑星」への変遷過程の定量的調査

科学的意義
オールト雲ないしカイパーベルトから太陽系内部に飛来する長周期彗星の一部は、太陽や惑星の摂動などで短周期彗星へと軌道進化し、やがて近日点通過毎の揮発性成分の放出を弱めていき、「枯渇」すると考えられる。すると軌道要素や流星群の有無などを除けば、光学上メインベルトから飛来した近地球型小惑星とは簡単には見分けがつかないことから、こうした天体を CAT 天体(彗星・小惑星遷移天体)と呼ぶ。従って、CAT 天体の表層近くには、太陽系外縁で形成された彗星核において進化した有機物や揮発成分の残滓が含まれていると期待される。ガス活動が少ない(活動領域が表面積の 0.1 % 以下)ため、地球近傍でもランデブー、接触サンプリングは比較的安全だと思われる。そこで CAT 天体からサンプルリターンを行うと、活動中の彗星コマから固体微粒子を採集する Stardust 探査機とは相補的に、彗星に最も近い始原天体の表面物質を直接得ることができる。これにより、彗星の熱史の解明や、彗星から CAT 天体、「小惑星」への変遷過程の調査が可能になるだろう。

これまで CAT 天体、あるいは活動の弱い彗星として知られた天体には、ふたご座流星群の母天体 3200 Phaethon、おうし座流星群の母天体であり、CONTOUR がフライバイする予定の P/Encke、ジオット探査機がフライバイした P/Grigg-Skjellerup に加えて、Oljato、1983VA、Adonis、Neujmin-1、Tempel-2、P/Arend-Rigaux、P/Wilson-Harrington らがある。今回探査候補とした P/Wilson-Harrington は、1949年に彗星として発見されたものの行方不明となり、1979年に小惑星 1979 VA が発見されたとき、同一天体であることが確認された。近日点通過距離は 1.0003117 AU、周期は 4.298 年である。地球軌道と交差するため、過去の火球記録には、この天体との相関が指摘されるものも存在する。

探査天体候補・軌道設計
一般に軌道傾斜角が小さい場合,ランデブー点は地球軌道程度の距離まで接近するので,電気推進を用いたサンプルリターンが現実的となる。高い相対速度を電気推進の能力が発揮しやすい 1 AU 程度まで引き下げられるからである。出発時の地球からの相対速度が大きくても,1 AU 程度の軌道半長径の同期 スイングバイを使った惑星間空間でのパーキング軌道により(=EDVEGA 航法),比較的小型の探査機でもこの軌道は可能である。

CAT天体は彗星と似た軌道要素(高軌道傾斜角など)を持つものが多いが、Wilson-Harrington 上述の条件を 1 AU の距離で満たす珍しい天体である。打ち上げ好機は2006、2010年であるが、先行する EDVEGA 飛行時間を見込むと、打ち上げは各々の前年になる。地球発の相対速度は、7.4 km/s に達するが、打ち上げ時の無限遠速度ゼロの軌道は 1.4 年同期の EDVEGA 飛行の間に無限遠速度は 6 km/s に加速され、さらに地球から遠ざかる間に所望の速度までに増速する(図 11-13)。探査機は MUSES-C 型を想定できるが,(1)太陽電池パネル の 1 AU での 3.2 KW への出力向上 、(2)電気推進機関の出力の大口径化、(3)熱設計の変更が必要である。

画像:左から図 11. Wilson-Harrington 探査用 EDVEGA 軌道. 図 12. Wilson-Harrington へ往路(2010年). 図 13. 地球帰還軌道(2018年).


6. 搭載機器例

スペクトル既知 NEO とファミリーミッションで必要な搭載機器の例は、前回のシンポジウムにて報告したので詳細は繰り返さない[2]。両者の最大の違いはランデブーとフライバイであり、同じ科学計測でも、求められる時間・空間分解能は異なる。CAT 天体サンプルリターンは基本的にスペクトル既知 NEO マルチランデブー&サンプルリターンと似た科学機器の構成になる。すなわち計測項目は、(1)全体形状、表面地形、(2)可視/近赤外域の分光マップ、(3)周辺ダスト環境、(4)重力測定、(5)小天体表面特性、(6)蛍光X線 /γ線による組成マップ、そして(7)試料採集である。それらに必要な機器はサンプラー以外では、例えば MUSES-C に準じた(A)サンプル採取装置、(B)可視/近赤外分光撮像装置、(C)蛍光X線スペクトロメータ、(D)レーザー高度計、(E)小型ランダやローバなどであろう。また新規開発が求められる機器には、(a)ランダー,(b)熱赤外カメラ or 放射温度計、(c)磁力計、(d)ガンマ線スペクトロメータ、(e)衝突微粒子組成分析器、(f)ローバ・ランダの高性能化などが挙げられる。


7. ” 次世代小天体 “ サンプリング法の検討

MUSES-C は世界初の小惑星サンプルリターンとして画期的な弾丸式サンプリング法という画期的なアイディアを実現した。しかしそれは天体表面からせいぜい深さ数 cm までの大半が粉末状の試料を、層序を崩して採集するという限界を持っている。一方で NEAR シューメイカー探査機の成果や、新しくディスカバリー計画に選ばれた Vesta と Ceres のランデブー探査・Dawn ミッションが目指す目的などから明らかなように、次世代の小天体探査における内部構造の理解やバルク密度、引っ張り強度などの実測は、その天体の成り立ちやその後の熱的履歴を推定する上で極めて重要である。そこで、図 14、15 では、微小重力下でのコアボーリングも含めて、MUSES-C 以外の様々なサンプリング方法を検討した。勿論、レゴリスに埋もれたような微小重力の表面で探査機が自らを錨で支えることは、工学的に容易ではない。さらに深い構造には、レーダーサウンダや地震計による計測も考えられるが、地質の境界面をもたない未分化天体や、空隙率の高い rubble pile 構造の場合、そうした技術の通常の転用では十分な計測を行うのは難しいと思われる。内部構造探査は、次期小天体探査の目標の一つであり、この分野における工学的検討には一層の努力が必要である。

画像:左から図 14. 微小重力天体からの様々なサンプリング方法. (a)Rosetta 式。錨による探査機固定とドリルでの表面掘削. (b)ぺネトレータ式(本文参照). (c)MUSES-C 式。弾丸照射による放出物回収. (d)アラジン& Deep Impact 合体式. 自律子機を衝突させ、母機で破片を回収.(ファミリー案。本文参照)

ペネトレータ式サンプリング
この方式は、数 m の深さから、層序関係を保った試料を取り込むための機構である。ただし前提条件としては、(1)ペネトレータを搭載した探査機は、探査地点の上空数~数十 m をホバリングできる、(2)表面は数~数十 m/s の速度でペネトレータを打ち込んだときに数 m 潜る程の堅さを持つ、(3)ペネトレータと探査機を繋ぐテザーは十分に長く、繰り出し抵抗も小さく、ホバリングに悪影響を与えない、(4)ペネトレータが刺さらなかったとき、テザーを切り捨てる事が可能とする。この時のシークエンスは以下のようになる。(A)ホバリング中の探査機よりペネトレータを発射、(B)ペネトレータが地表に突き刺さり、数m潜り込む、(C)テザーを静かにたぐり寄せて、探査機をテザーの張力によって軟着陸させる、(D)ペネトレータ内部のサンプリング装置がテザーをガイドにして少しずつ上昇して一定深度ごとに近接撮影、計測、サンプリングを行う、(E)サンプリング装置を回収後、テザーを切って離脱する。

自律子機衝突式サンプリング
この方式は、アラジンや Deep Impact 計画で提唱されているアイディアを、MUSES-C や Lunar-A などの日本の独自技術で実現を目指すものである。これまでにもファミリーミッションを想定して、小惑星表面からの衝突放出物のサイズ・速度の空間分布についてハイドロコードでの検討が行われてきた[7]。探査機(親機)の自律航法機能は、高速フライバイのために、MUSES-C で獲得した技術を一桁以上の精度向上させる。また、親子での編隊飛行を実現するために、投下した子機の軌道を監視する航法望遠鏡も必要となる。試料回収トレイ・コンテナは、秒速 10-15 km でも非破壊捕集できるように密度を最適化したエアロジェルを用いた、カプセルに回収する(図 15)。

自律航法を行う弾丸子機には、近接撮像用可視カメラとレーザー高度計が装備される。子機そのものが自律ロボットであり、小惑星を指向させ衝突軌道を取る。衝突直前まで航法を兼ねた光学カメラにより小惑星表面の近接観測を行って親に画像を転送し続ける。なお今回は、EFP(Explosively Formed Penetrator)弾頭打ち込みによる衝突爆破を想定した(図 16)。この場合、小惑星の放出物に指向性を持たせることが可能になるので、エアロジェルトレイを展開した親機を予め予想した軌道を通るように編隊飛行を組むことが可能になる。

画像:左から図 15. 複数エアロジェルトレイを格納した、地球帰還カプセルの概念図. 左右図 16. EFP 式弾道による衝突放出物の志向性確保.

8. 現在の取り組みと今後の予定

現在 MEF では主に、フライバイ方式における自律子機の性能・構造、および親機との編隊飛行手法が検討されている。また、内部構造探査のためのコアボーリングやサウンディングを、rubble pile 天体に応用する際の技術課題についての議論している。NEO に関しては、スペクトル未知の探査候補天体について、地上望遠鏡との連携して物理観測データを蓄積することや、HERA ミッションや CAT 天体探査などの国際協力の可能性も模索中である。

今後は、現在編集の最終段階であるMEF報告書を完成させ、それを議論の土台として宇宙科学研究所の正式な機関としての「次期小天体探査ワーキンググループ(仮称)」を新年度中に実現させることを目指す[8]。同時に「アウトリーチ活動」としての MEF も継続させ、ポスト MUSES-C の検討団体から、「惑星探査のサポーター団体」へ衣替えし、MUSES-C や次期小天体探査を自分達のミッションとして、今後もずっと見守って頂きたい。

謝辞

本稿の執筆に際しては、多くの MEF メンバーとの意見交換やアドバイスを頂いた。特に図版作成については、同メンバーである池下、斎藤(潤)、廣井、本田、本多、森本、山中、吉田(和哉)各氏にご協力頂いた。ここに厚く御礼申し上げる次第です。

参考文献

[1] 宇宙科学研究所編、2001: 日本の宇宙科学の将来構想、パンフレット、文部科学省宇宙科学研究所.
[2] 矢野創他, 2001:第一回宇宙科学シンポジウム講演集, 文部科学省宇科学研究所, 153-160
[3] D.W.G. Sears, et al., 2001: Abst. XXXII Lunar & Planet. Sci. Conf., on CD-ROM
[4] 森本睦子他, 2001:第22回太陽系科学シンポジウム講演集, 文部科学省宇科学研究所, 64-67
[5] 詳細は川口淳一郎著、本誌掲載のP1-26ポスター発表の後刷りを参照のこと。
[6] H. Yano, et al., 2001: Abst. Asteroids 2001, Santa Flavia, Italy
[7] H. Yano, et al., 2001:第22回太陽系科学シンポジウム講演集, 文部科学省宇宙科学研究所, 68-71
[8] 矢野創, 2001:日本惑星科学会誌=遊・星・人、10, No.3, 138-145.